特別養護老人ホームでの体験

高齢者の寂しさに触れたこと

地域協議会の新年交流会であいさつ。 右は市橋あや子区議。1/9
地域協議会の新年交流会であいさつ。 右は市橋あや子区議。1/9
長年勤めた留学生支援の職場を退職し、これからは地域で働きたいと考えていたころ介護ヘルパーという仕事があるのを意識しました。夫の家族と二世帯住宅で同じ屋根の下に暮らすことになり、車椅子で生活する兄とのことで役に立てばという思いもあって、その仕事を始めることにしました。

ヘルパー2級資格取得のための実習で、ある特別養護老人ホームで高齢者の方々と2日間を過ごしました。実習生なので、いろんな仕事をさせてもらえるわけではありません。そこで利用者と一緒に話し相手になって過ごす時間が多くありました。

私は89歳の女性Tさんと、お昼の時間、食事を見守りながら話し相手になりました。
Tさんは食事を目の前にして、何度も何度も「お腹がすいた」と言います。「じゃあご飯を食べましょうね」と声を掛け、ご飯を口に運ぶのですが、食べながらまた「お腹がすいた」と訴えるのです。
ご飯を食べ終わっても、何度もそれを繰り返していました。私との会話はなりたっていませんでしたが、いろいろ話しかけながらTさんにと一緒に居ました。
そして、私の休憩時間が来て「じゃあ、ちょっと行って来ます」と言ってその場を立とうとしたとき、Tさんはすごく寂しそうに「行かないで、行かないで」と言い出しました。すぐ戻るから、と言ってもなかなか行かせてくれません。「すぐに戻って来る?」というのに何度も「本当にすぐ戻るから」と言って、やっとその場を離れました。

いろんなことがわからなくなって、でも自分を相手にゆっくり向き合ってくれる人がいないという寂しさだけはいつも感じていて、ただ時を過ごしている孤独を思うと、本当に心が重くなりました。

現場は深刻な人手不足でした。オムツ換え、体温を測ること、食事の介助、入浴、褥瘡予防のための数時間毎の体位交換などをこなすことで精一杯です。そこに数名の新人研修(私達ヘルパーの実習生とは違います)までしなければなりません。労働過剰で常に人が辞めてしまい、1ヶ月に5、6名の新人が入ってくるそうです。
そんな中で利用者と職員がゆっくり向き合う時間をまったく持てないのは当然です。

特養での人材の確保、待遇の改善はすぐに必要です。それと平行して、ゆうゆう館やディサービスでの予防対策の充実、在宅を支えるための訪問介護に携わる人材の確保と待遇の改善、莫大な予算がかかりますが、本当に放置するわけにはいかない課題です。