福島県二本松市で里山を守る有機農業と地域づくりを視察して
東京・生活者ネットワークの視察で、福島県二本松市東和町にある「あぶくま高原 遊雲(ゆう)の里ファーム」で農作業体験をさせてもらい、原発事故が起きてからの地域での暮らし、農業の営みを継続し地域を再生していこうとするさまざまな試みについて、遊雲の里ファームの菅野正寿さんに話をうかがってきました。
山の中腹にある遊雲の里に向かうバスの中から稲が青々と茂る棚田や菅野さん一家の作る畑が一望できます。原発事故があって、たくさんの放射能が降り注ぎ、農業を続けられるのか悩んだ末に、この地で有機農業を継続することを選択し、農業を辞める人の田んぼも引き受けて、地域を守り続けています。田んぼを辞めて2年もたつとセイタカアワダチソウが生い茂り、風景も荒れてしまうので、それを防ぐために50枚もの田んぼを耕しているそう。苦悩を乗り越え強い意志を持った人たちに守られて、美しい棚田の風景が保たれていることに深く頭がさがりました。
菅野さんたちは、ただそこで農業を続けるだけでなく、時には都会に出て、二本松での放射能に向き合う地域の暮らしや農業についての講演をし、都会の人たちを田んぼに招いて一緒に作業をする取り組みも始めていました。中には原発を製造する企業の人もいるそうで、その人たちに現地を見てもらい、対話をする機会をつくっている姿勢にも共感しました。菅野さんの娘さんの瑞穂さんは「きぼうのたねカンパニー」という会社を立ち上げ、旅行会社と組んで都市に住む人たちに農業体験の場を提供し、福島の今を知ってもらう活動を精力的に進めています。
私たちも、トマトとなすの収穫を体験しましたが、収穫したばかりのほんのりあたたかいトマトをその場で食べた味は甘みがあって格別でした。夜は菅野さんが経営する農家民宿で、そこでとれた野菜を奥さんが調理した地野菜づくしの料理が美味しくて、お腹がはちきれそうになるほどいただきました。その後、私は沖縄から移住し、近くで農業を始めた若いオーナーが営む農家民宿「ゆんた」に泊めていただきました。築100年のかやぶき屋根の、掃除が行き届いた古民家は居心地がよく、とてもくつろげる素敵な場所でした。
近くの道の駅「ふくしま東和」は菅野さんや地元の人たちが作ったNPOが運営し、心ある企業から寄付されたという放射能測定器で地元野菜などを測定し、安全な野菜を提供していることがわかりました。記録を見せていただくと、乾燥した稲わらから46ベクレル/Kgのセシウムがでていましたが、それ以外は不検出でした。ここでしかできない体験をし、現地の人たちの原発事故と放射能汚染の現実を受け止めた上で、地域で協力して前向きに明るく道を切り開いていく方たちとのあり方から、今後自分たちが目指す道を考える良い機会をいただきました。